ロロノア家の人々

    “春よ来い来いvv”
 


この冬は例年以上の大雪も降ったアケボノの里にも、
そろそろ春の訪れを知らせるあれこれがお目見えをしており。
弥生の頭にはお雛様を並べての女の子のお祝いもした。
雛人形を出すのは嬉しいが、
片付けるのは微妙に神妙になりもする…と。

 『ゾロが言ってたのには驚いたよなぁ。』

道場師範だというだけじゃあない、
此処だけの話、
実はあのグランドラインで“大剣豪”の名をもぎ取ってもいる、
世界一を冠された凄腕の剣豪だってのにな。
みおをいつかは嫁に出さにゃあならんのを、
今からもう、心配したり寂しそうにしたりしてんだぜと。
どんだけ“らしくない”ことばっかすりゃ
気が済むんだろうなって。
選りにも選って、奥方から言われていたくらい。

  だって、
  そんな姿が一番似合わぬはずの武人なはずなのに。

事実上は海賊業から引退したも同様な隠遁状態にありながら、
それでも時折、
頼もうっとばかり、道場破り風の挑戦者がやって来ちゃあ、
こてんぱんに伸されているというのが、いまだに続いているし、
グランドラインはおろか、その他の海でも、
“大剣豪”を勝手に名乗って、
広く顔を売っているよな怖いもの知らずな存在は、
今のところは聞かれないとか。
船長にして海賊王でもあったモンキー・D・ルフィが海賊を廃業し
秘密裏に陸
(おか)へと上がったとされているのへ、
護衛をかねて同行しており、
海の覇者より腹心ぶりを貫いたらしいというのがもっぱらの噂で。

 そんなロロノア=ゾロが、いつか復帰し、
 その宣言を兼ねてのこと、
 大それた偽剣豪へ挨拶に来でもしたらばどうするか。

それを思えば、
くだらない嘘をついたばっかりに一生震えて過ごすなんて愚行、
一体誰が選ぼうかと。
そこまでいまだに恐れられているんだのにね………。





      ◇◇◇


 「あのね、お父さん。
  ツタさんがね、
  お雛様のお祭りはね、
  昔は桃の咲く時期に重なったから、
  桃の節句と言ったのですよって。」

知ったばかりの知識とやらを、知ってた?と無邪気に自慢する。
お膝にのって“ねえねえ”と、
それは愛らしく話しかけてくるまだまだ幼い長女を前に、

 「そうか、そういうお話をしているのか。」

春めいた陽光にぬくぬくと暖められた濡れ縁にて、
知ってた? いいや知らなかったなと、
目許をほのかにたわめ、ゆるゆるとかぶりを振る様子は。
ぎりぎりで威風を留めつつも、

 『どんな小さなことだって、
  偉いな凄いなになっちまうんだぜ。
  あれって完全に“親ばか”だもんよな。』

しょうがねぇなぁなんて、
奥方が呆れるほどのやに下がりっぷりだそうで。

 「ツタさんはね、
  昔の暦の弥生は、今の暦の、
  えっとぉ…皐月の手前くらいだったって言うの。」

そのくらいの、本当に桃のお花が咲くころだったから、
それもあって“桃の節句”というんですよって。
そんな他愛のないことを、さも大切な最新の情報のように、
お父さんにだけ教えてあげるのよと、
語ってくださるお嬢さん。
つややかな黒髪に、潤みの強い漆黒の瞳。
そんな、奥方であるルフィ似のお嬢ちゃんが気に入りで、
梅の次は桜で桃で。
早いところではもう菜の花も咲いてるんだって。
ツタさんが若芽のおひたしを作ってくれたら、
もう春なんだなぁって実感しちゃうって、お母さんが言ってたの。
半分以上は受け売りのそんなお話を、
それと知りつつ、
それでも心から愛しくてしょうがないと、
真面目に聞いてあげている師範殿。
ちょっぴり襟の高い、玉子色のパルキーセーターに、
桃色のカーディガンにはマーガレットの刺繍入り。
ミルクを垂らした紅茶みたいな甘い色合いの、
コーデュロイのスカートに、
白地に編み込み模様の入ったタイツを合わせているおしゃれさんで。
濃紺の作務衣を着、背条を延ばしたお父さんの、
堅いけど広いお膝に腰掛けて、
可愛らしいお喋りを続けておいで。

 「弥生ってそんなところから引っ越して来たの?」

かっくりこと小首をかしげるお嬢ちゃんへ、
ああなんて可愛いことを言うのだろと、
目尻も下がりまくりでありながら、
……若いころからのぶっきらぼうが幸いし、
それと判るのは奥方だけなのが、今のところは重宝しておいで。

 本当ならば授かるはずのない、愛しい人との子宝な君。
 やんちゃな長男も勿論可愛いし大切で。
 本人が望むようなので、強い男になれるよう、
 剣豪目指しての様々な鍛練、積ませてやるつもりでいるし。
 こちらのお嬢ちゃんの愛らしさには、
 最愛の奥方との差がないほどに、
 心根の芯がぐらついてしょうがなく。

あのねあのねと、舌っ足らずな話しようで、
お喋りを差し向けられたりした日にゃあ。
修練の精神統一もあっさりと中断されてのこと、
何だい? お話していいよ?と、
相好崩すのも もはやいつものこととなっている始末。

 「春になったら、大町からシモツキにお嫁さんが来るのよ?」
 「ほう、そうなのか?」

それは初耳だと、
クリスマスにはサンタが来るというノリで紡がれたお話へ聞き入れば、

 「あのね? コウシローせんせえのところの、
  しはんだいのおじちゃん、カンベエさんのところにね?
  大町からきれいなお嫁さんが来るのだって。」

…そういや、いつぞやにそんな話をしましたな。
そんな個人的なお話が、なのに回覧板で回ってたとか。
(おいおい)

 「あのね?
  みおはお父さんのところへ、お嫁さんになってゆくからね?」

 「………………お?」

やっぱり春の行事か何かのような把握をしているらしく。
しかも、困ったことには、
お父さんのお嫁さんになるのだと、
本気なんなら海賊王との一騎打ちをせにゃならんかもという、
豪気なことを言い出すお嬢さまでもあって。


  ……………って、だから大剣豪さん、
      緩みまくっててどうするか。
      奥方にはバレバレだってのに。
(苦笑)





   〜どさくさ・どっとはらい〜  11.03.16.


  *底冷えする寒の戻りの中、
   灯油も切れた避難所で、
   寒さと闘っておいでの被災者の方々を思うと、
   しばらくほど更新は休もうかとも思ったのですが。
   こんなのでも
   活字を追うお楽しみを提供出来ますれば幸いかと。
   今回のお話のような、
   のほのほと暖かい日和の毎日に
   早くなってほしいですよね。

めるふぉ 置きましたvv めーるふぉーむvv

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